通院が難しくなった母のために、訪問歯科を頼もうか迷っています。料金の説明を読むと「医療保険」「介護保険」「居宅療養管理指導」と言葉が出てきて、何にいくらかかるのかが分かりません。
訪問歯科の費用は、歯科医師や歯科衛生士が「何をするか」で、使う保険が分かれます。大まかには、診察や治療は医療保険、療養上の管理や口腔ケアの指導(居宅療養管理指導)は介護保険、という考え方です。実際にどちらで請求されるかは、本人の状況と歯科医院の算定で決まります。先に全体像を表で見たうえで、費用の考え方を順に説明します。
先に結論
- 診察・治療が中心なら医療保険、口腔ケアの指導や管理が中心なら介護保険の居宅療養管理指導、という整理から始める
- 居宅療養管理指導は、要介護の認定を受けた、通院が困難な方が対象。歯科医師は月2回、歯科衛生士は月4回までが上限
- 自己負担は、単位数に1単位の単価をかけた額の1割(所得によって2割・3割)
- 金額は歯科医院ごとの加算で変わる。申し込みの前に、見積もりと、どの保険で請求するかを確認する
医療保険と介護保険、どこが違うのか
同じ歯科医院に頼んでも、保険が分かれるのですか。
分かれることがあります。厚生労働省の資料では、介護保険の居宅療養管理指導は、通院が困難な利用者の自宅を歯科医師や歯科衛生士などが訪問して、療養上の管理や指導を行うサービスとされています。診察や治療そのものは、訪問歯科診療として医療保険で行われます。
| 医療保険 | 介護保険(居宅療養管理指導) | |
|---|---|---|
| 主な内容 | 診察・治療(歯科訪問診療) | 療養上の管理・指導。歯科衛生士による口腔内や義歯の清掃、飲み込みに関する実地指導など |
| 誰が行うか | 歯科医師 | 歯科医師、歯科衛生士等 |
| 対象 | 通院が難しい方 | 要介護の認定を受けていて、通院が困難な方 |
| 回数の上限 | 診療の内容による | 歯科医師は月2回、歯科衛生士等は月4回(がん末期の方は月6回) |
| 相談の入口 | 歯科医院 | 担当のケアマネジャー、歯科医院 |
この表は「全体の見取り図」です
どの保険で請求されるかは、本人が要介護認定を受けているか、同じ建物に何人の利用者がいるか、直前にどんな診療をしたかなどで変わります。表のとおりにならない場合もあります。歯科医院に「この訪問は、医療保険と介護保険のどちらで請求されますか」と聞いてください。
居宅療養管理指導とは、何をしてもらえるのか
居宅療養管理指導は、具体的には何をしてもらえるのでしょうか。
厚生労働省の資料では、職種ごとに次のように整理されています。
- 歯科医師: 計画的で継続的な歯科医学的管理に基づき、ケアマネジャーに、ケアプランに必要な情報を提供する。家族に、介護の方法や留意点を助言する。訪問診療または往診を行った日に限り算定できる
- 歯科衛生士等: 訪問歯科診療を行った歯科医師の指示と、その歯科医師が立てた訪問指導計画に基づき、口腔内や入れ歯の清掃、飲み込み(摂食・嚥下)の機能に関する実地指導を、利用者に1対1で20分以上行う
つまり、「口の中の掃除を代わりにやってもらうサービス」というより、ご本人と家族に、日々のケアの方法を教えてもらい、状態をケアマネジャーにも共有してもらうサービスです。毎日の手順は寝たきりの口腔ケアの基本やうがいができない人の口腔ケアも参考にしてください。
介護保険の費用は、どう決まるのか
介護保険だと、いくらくらいかかりますか。
介護保険の報酬は「単位」で決まります。2026年6月29日の厚生労働省の分科会資料にある、居宅療養管理指導の単位数は次のとおりです。
| 職種 | 単一建物居住者が1人 | 2〜9人 | 10人以上 | 上限 |
|---|---|---|---|---|
| 歯科医師 | 517単位 | 487単位 | 441単位 | 月2回 |
| 歯科衛生士等 | 362単位 | 326単位 | 295単位 | 月4回(がん末期は月6回) |
「単一建物居住者」とは、同じ建物で同じ訪問を受ける利用者の人数です。一戸建てで1人だけ受ける場合は、左の列になります。
自己負担の計算の考え方
自己負担 = 単位数 × 1単位の単価 × 負担割合(1割・2割・3割)
- 負担割合は原則1割。一定以上の所得がある方は、2割または3割になります(自己負担割合の仕組み)
- 1単位の単価は、厚生労働大臣が定める告示(平成27年厚生労働省告示第93号)で、居宅療養管理指導はどの地域区分でも割合が千分の千とされています。基本の単価10円に、割合をかけた額なので、1単位は10円です。2026年8月5日の厚生労働省の分科会資料でも、単価は地域・サービスにより10円〜11.40円、居宅療養管理指導は割増の対象に挙がっていません
- 例: 歯科衛生士等が、単一建物居住者1人に対して訪問する場合は362単位。1単位10円とすると3,620円で、1割負担なら362円が目安です
- このほかに、歯科医院ごとの加算や、同じ月に医療保険で受けた診療の自己負担がかかる場合があります
表の金額は、基本の単位数だけを使った目安です。実際の請求額は、領収書や事前の見積もりで確認してください。
介護保険の使いすぎで、ほかのサービスが使えなくなることはありませんか。
使いすぎにはなりません。区分支給限度基準額(介護度ごとに決まる、介護保険で使える月々の上限)の対象になるサービスは、介護保険法施行規則第66条に一覧があり、居宅療養管理指導はその中に入っていません。つまり、訪問歯科の分を使っても、デイサービスや訪問介護などに使える上限は減りません。ただし、自己負担は別にかかります。
介護保険を使わなくても、訪問歯科は受けられるのか
介護保険を使わずに、訪問歯科を受けることはできますか。
要介護認定を受けていない方は、歯科の訪問診療を医療保険で受ける形になります。要介護の認定を受けた方の場合、厚生労働省の通知には、要介護被保険者等となった日から、同一の傷病等についての給付が医療保険から介護保険へ変わると書かれています。月の途中で要介護になった場合、医療保険の訪問歯科衛生指導と、介護保険の歯科衛生士による居宅療養管理指導は、同じ医療機関で、両方の回数を合算して上限を考えるともされています。
「介護保険を使わないと損」という話も聞きました。
損か得かは、一概には言えません。保険を使わないほうが安くなるかどうかは、受ける内容と、その月の医療保険の自己負担で変わります。大切なのは、使う・使わないを自分で決めることより、どの保険で請求されるかを、歯科医院とケアマネジャーに確認しておくことです。
ケアプランとは、どう関係するのか
居宅療養管理指導は、ケアプランに入れてもらう必要がありますか。
すでに介護サービスを使っている場合は、先に担当のケアマネジャーに相談してください。歯科医師は、ケアマネジャーに、ケアプランに必要な情報を提供することが仕事の一つとされています。訪問歯科を入れたいこと、口の中で困っていること(食べこぼし、むせ、入れ歯が合わないなど)を伝えておくと、ほかのサービスとの兼ね合いも含めて調整してもらえます。どう位置づけるかは、ケアマネジャーと確認してください。
まだ介護サービスを使っていない場合は、地域包括支援センターが窓口になります。要介護の認定が必要になるときは、要介護認定の申請から始めます。
申し込みから初回訪問までの流れ
進め方の目安
- ケアマネジャーに、口の中の困りごとと、訪問歯科を考えていることを伝える
- 訪問歯科に対応している歯科医院を、ケアマネジャーやかかりつけ歯科、地域の歯科医師会に聞く
- 歯科医院に連絡し、住所、本人の状態、通院が難しい理由、要介護認定の有無を伝える
- 初回の訪問日に、診療の内容と、どの保険で請求されるか、料金の目安を説明してもらう
- 訪問後、歯科医院からケアマネジャーに状況を共有してもらい、必要ならケアプランを見直す
どこに相談すればいい?
費用や保険の扱いはケアマネジャーに、口の中の状態や治療の必要は歯科医師に相談できます。むせが増えた、食事に時間がかかるようになった、痰がからむ音が変わったと感じたときは、用品や費用を調べる前に、早めに歯科医師・かかりつけ医・訪問看護師に伝えてください。
相談時にそのまま使える質問メモ
- 訪問は、医療保険と介護保険のどちらで請求されますか?
- 初回の訪問で、料金はいくらくらいになりますか? 加算はありますか?
- 歯科医師と歯科衛生士の訪問は、月に何回ずつ、どのくらいの間隔になりますか?
- 訪問のたびに、口腔ケアのやり方を家族に教えてもらえますか?
- ケアマネジャーへの情報提供は、誰が、どのような形でしてくれますか?
- 今月、ほかに医療保険で受けた診療がある場合、自己負担はどうなりますか?
よくある質問
Q. 訪問歯科の「20分ルール」とは何ですか?
介護保険の居宅療養管理指導で、歯科衛生士等が実地指導を行う場合、利用者に1対1で20分以上行うことが、厚生労働省の資料に記載されています。
Q. 介護保険と医療保険は、どちらが優先されますか?
一律に決まっているわけではありません。要介護の認定を受けた方については、同一の傷病等の給付が、認定を受けた日から医療保険から介護保険へ変わるとされています。個別のケースは、歯科医院とケアマネジャーに確認してください。
Q. 要支援の方も使えますか?
要支援の方には「介護予防居宅療養管理指導」という同じ仕組みのサービスがあります。単位数や要件は、地域包括支援センターで確認してください。
まとめ
| 場面 | 主な保険 | 窓口 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 診察・治療を受けたい | 医療保険 | 歯科医院 | 訪問診療の費用は、その月の医療保険の自己負担 |
| 口腔ケアの指導を受けたい | 介護保険(居宅療養管理指導) | ケアマネジャー、歯科医院 | 歯科医師は月2回、歯科衛生士等は月4回まで。自己負担は1〜3割 |
| まだ要介護認定を受けていない | 医療保険 | 地域包括支援センター、歯科医院 | 認定を受けると、扱いが変わる場合がある |
| 費用が心配 | ― | ケアマネジャー、市区町村の窓口 | 高額介護サービス費、医療費控除の確認 |
自己負担の金額や、どの保険で請求されるかは、歯科医院や市区町村によって扱いが異なる場合があります。
出典・参考
- 厚生労働省 居宅療養管理指導(社保審―介護給付費分科会 第259回 資料5) (2026年6月29日。2026年10月15日確認): 歯科医師・歯科衛生士等の単位数、月の上限回数、職種ごとの指導の内容、20分以上・1対1の要件
- 厚生労働省 医療保険における在宅医療と介護保険における指定居宅サービス等に関する留意事項(令和6年3月27日通知) (2026年10月15日確認): 医療保険から介護保険への給付の変更、訪問歯科衛生指導と居宅療養管理指導の回数の合算
- 介護保険法施行規則(平成11年厚生省令第36号)第66条 (e-Gov法令検索。2026年10月15日確認): 区分支給限度基準額の対象となる居宅サービス等区分の一覧に、居宅療養管理指導が含まれない
- 厚生労働省 厚生労働大臣が定める一単位の単価(平成27年厚生労働省告示第93号) (2026年10月15日確認): 居宅療養管理指導は、一級地から七級地、その他のいずれも割合が千分の千
- 厚生労働省 地域区分(社保審―介護給付費分科会 第262回 資料3) (2026年8月5日。2026年10月15日確認): 1単位の単価は10円〜11.40円。割増の対象サービスに居宅療養管理指導は挙がっていない
- 厚生労働省 介護保険制度の概要(令和7年7月) (2026年10月15日確認): 利用者負担は原則1割、一定以上所得者は2割または3割
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