家族

父をベッドから車椅子に移すとき、抱え上げるようにしています。最近、自分の腰が限界に近い気がしています。父も私も、このままで大丈夫なのか不安です。

編集部

それは無理もないことです。移乗介助は、入浴介助と並んで、家族の体への負担が特に大きい介助です。実は、体力や気合いの問題ではなく、「抱え上げる」というやり方自体に無理があります。国の指針でも、家族介助者を含めて、人力での抱え上げはできるだけ避けることが推奨されています。

この記事でわかる選択肢の全体像

  • 家庭でできる工夫(体の使い方・タイミングの合わせ方)
  • 公的サービス(訪問介護・訪問リハビリでの指導)
  • 制度・給付(福祉用具貸与・補装具費支給など)
  • 移乗を助ける用具という選択肢
  • 相談先と、そのまま使える質問メモ

まず、体の使い方を見直す

家族

道具を用意する前に、今すぐできることはありますか。

編集部

あります。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、介護・看護作業における移乗介助の姿勢について、次のように示されています。

⚠️ 一人での抱え上げは、できるだけ避ける

厚生労働省の指針は「移乗介助、入浴介助及び排泄介助における対象者の抱上げは、労働者の腰部に著しく負担がかかることから、全介助の必要な対象者には、リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」としています。これは職場向けの指針ですが、在宅で家族が担う移乗介助にもそのまま当てはまる考え方です。福祉用具の使用が難しく、どうしても人力で支える場合は、できるだけ姿勢に配慮し、一人で無理をしないことが大切です。

家族

道具がまだ用意できていない場合は、どうすればいいですか。

編集部

同じ指針では、重量物を扱う際の基本姿勢として「できるだけ身体を対象物に近づけ、重心を低くするような姿勢を取ること」「腰部のひねりが少なくなるようにすること」も示されています。移乗の場面に置き換えると、次のような工夫につながります。

抱え上げる前に見直したい3つの姿勢

  • 父・母の体からできるだけ体を離さず、密着させてから支える(遠いほど腰への負担が増えます)
  • 腰を落として重心を低くしてから支える(中腰のまま持ち上げない)
  • 体をひねらず、足を踏み替えて向きを変える(腰だけひねらない)
編集部

ベッドや車椅子の高さを、移乗しやすい高さにそろえておくことも負担を減らします。介護用ベッドの高さ調整機能を使う、車椅子をできるだけベッドに近づけて角度をつけて置くといった準備だけでも、体への負担は変わってきます。

公的サービス: 専門職から移乗の仕方を教わる

家族

自己流でやっていて、これで合っているのか分かりません。

編集部

訪問介護(ホームヘルプ)の身体介護では、ヘルパーが実際に移乗の介助を行います。また、訪問リハビリや訪問看護では、理学療法士や看護師が、ご本人の体の状態に合わせた移乗の仕方や、家族への介助方法の指導を行うことがあります。「移乗のやり方を教えてほしい」とケアマネジャーに伝えれば、こうしたサービスの利用につなげてもらえます。

家族

家に来てもらって、実際のやり方を見てもらえるということですか。

編集部

そうです。文章や動画で学ぶより、ご本人とベッド・車椅子の実際の位置関係を見てもらったほうが、体格や住環境に合った具体的なアドバイスをもらえます。福祉用具専門相談員による用具の選定・使い方の説明も、同様に自宅で受けられます。

制度・給付: 介護保険と障害福祉、それぞれの支援

家族

道具を使うとして、費用はどのくらいかかりますか。

編集部

65歳以上で要介護認定を受けている方(40〜64歳で特定疾病により認定を受けた方を含む)は、介護保険の「福祉用具貸与」で、移乗に関連する用具を原則1〜3割の自己負担でレンタルできます。主な品目は次のとおりです。

介護保険で借りられる・買える移乗関連の用具

  • 手すり(要支援・要介護1でも対象): 立ち上がりや移乗動作を補助するもの
  • スライディングボード・スライディングマット(特殊寝台の付属品として貸与。特殊寝台自体が要支援・要介護1では原則対象外のため、あわせて確認が必要): 臀部を滑らせて車椅子等へ移乗する際に使う
  • 移動用リフト(原則、要介護2以上が対象。要介護1以下でも医師の所見等により例外的に給付される場合あり): 身体をつり上げて、または支えて移動を補助するもの
  • 移動用リフトのつり具の部分は、貸与ではなく「特定福祉用具販売」(購入)の対象
編集部

要支援・要介護1の方は、移動用リフト本体は原則対象外です。ただし、ケアマネジャーを通じて市町村に状態を確認してもらうと、例外的に給付が認められる場合があります。まずはケアマネジャーに相談してください。

家族

父は65歳未満で、身体障害者手帳を持っています。同じ仕組みが使えますか。

編集部

介護保険の対象にならない方(65歳未満で要介護認定の対象にならない方など)は、障害福祉の「補装具費支給制度」や「日常生活用具給付等事業」の対象になる場合があります。車椅子や座位保持装置などが対象です。自治体ごとに実施内容が異なるため、お住まいの自治体の制度を確認してください(例: 八王子市の補装具費の支給横浜市の重度障害者(児)日常生活用具給付等事業)。お住まいの自治体の制度は地域から探すで確認できます。

⚠️ 自治体によって内容が異なります

福祉用具貸与は全国共通の介護保険の仕組みですが、障害福祉の補装具費支給・日常生活用具給付は、対象品目や自己負担額が自治体ごとに異なります。この記事の内容は一般的な仕組みの説明です。実際の利用にあたっては、お住まいの自治体の窓口で最新の内容を確認してください。

用具という選択肢

家族

制度を使う前に、まず何を用意すればいいでしょうか。

編集部

状況によって、優先して検討したい用具は変わります。

状況別・移乗を助ける用具の例

  • ベッドから車椅子へ、座ったまま滑らせて移れる → スライディングボード
  • 立ち上がる力は少し残っている → 手すり・スタンディングマシーン(立位補助具)
  • 座ったまま体を支える力がほとんどない → 移動用リフト
編集部

どの用具が合うかは、ご本人の残っている力や体格、住宅の広さによって変わります。福祉用具専門相談員やケアマネジャーに、実際に自宅で試してから決めることをおすすめします。用具を使っても改善しない痛みや、めまい・立ちくらみを伴う場合は、道具の前にかかりつけ医への相談を優先してください。

どこに相談すればいい?

家族

結局、最初に誰に相談すればいいのでしょうか。

編集部

すでにケアマネジャーがいる方はケアマネジャーへ、まだ介護保険を使っていない65歳以上の方は、お住まいの地域の「地域包括支援センター」が最初の窓口です。障害のある方は、区市町村の障害福祉の窓口に相談してください。

相談時にそのまま使える質問メモ

  1. 今の移乗のやり方を実際に見てもらい、負担の少ない方法を教えてもらえますか?
  2. スライディングボードや移動用リフトは、介護保険でレンタルできますか? 自己負担はいくらですか?
  3. 要介護1ですが、移動用リフトを使いたいです。例外的に対象になりますか?
  4. 訪問リハビリや訪問看護で、移乗の介助方法を指導してもらうことはできますか?
  5. うちの自治体に、障害福祉の補装具費支給や日常生活用具給付で使える制度はありますか?

まとめ

状況主な選択肢相談先
今すぐ姿勢を見直したい体を密着させる・重心を低くする・ひねらない(自己対応。無理な場合は専門職へ)
正しい移乗のやり方を知りたい訪問介護・訪問リハビリ・訪問看護での指導ケアマネジャー
座ったまま滑らせて移乗したいスライディングボード(介護保険貸与)ケアマネジャー・福祉用具専門相談員
支える力がほとんどない移動用リフト(要介護2以上が原則対象)ケアマネジャー
65歳未満・障害福祉の対象補装具費支給・日常生活用具給付(自治体ごと)区市町村の障害福祉窓口
家族

「抱え上げ方が悪い」だけの問題ではなかったんですね。少し肩の力が抜けました。

編集部

移乗の負担は、家族の頑張りだけで解決するものではありません。この記事の質問メモを持って、まずは一度、ケアマネジャーか地域包括支援センターに相談してみてください。

出典・参考