認知症の母が、最近ひとりで外に出て道がわからなくなることがあります。目を離すのが怖くて、家事もままなりません。
それは気の休まらない毎日ですね。認知症のある方が外出先で自分の居場所がわからなくなること(以下、この記事では「ひとり歩き」と呼びます)は珍しいことではなく、家族だけで防ぎきるのが難しい面があります。対策は、家の中でできる工夫から、自治体の見守り制度、GPS機器まで、いくつも組み合わせることができます。
この記事でわかる選択肢の全体像
- 家庭でできる工夫(近隣への声かけ・持ち物の工夫)
- 公的サービス(小規模多機能型居宅介護など)
- 制度・給付(自治体の見守りSOSネットワーク・GPS利用料助成)
- GPS端末という選択肢
- 相談先と、そのまま使える質問メモ
まず知っておきたいこと
そもそも、うちだけの問題なのでしょうか。
決してそうではありません。警察庁の発表によると、認知症やその疑いによる行方不明者の届出は2025年で1万7,345人にのぼり、2019年以降1万7,000人を超える水準が続いています。その一方で、届出から3日以内に所在と生存が確認できたケースは全体の95%という報告もあります。早期に見つけられるかどうかが大きな分かれ目になるため、「起きる前提」で備えておくことが現実的です。
家庭でできる工夫から
特別な機器がなくても、できることはありますか。
あります。まず、衣類や持ち物に名前と連絡先を書いておく、または縫い付けておくことです。次に、日頃からよく行く場所(以前の職場、実家、行きつけの店など)を家族で把握しておくこと。ひとり歩きをする方は、記憶が新しい過去の生活パターンに沿って歩く傾向があると言われています。
近所に事情を話すのは、抵抗があります。
そのお気持ちはよくわかります。ただ、事前に近隣や行きつけのお店に「ひとりで出かけてしまうことがある」と伝えておくと、見かけたときに声をかけてもらえたり、家族に連絡してもらえたりします。実際に、行方不明者の発見者の約半数は地域住民だという報告もあります。すべてを話す必要はなく、信頼できる範囲から少しずつで大丈夫です。
玄関にセンサーや鈴を付けて外出に気づきやすくする、生活リズムを記録して外出しやすい時間帯を把握しておくことも、家の中でできる工夫です。
公的サービス: 介護保険で使える選択肢
介護保険のサービスで、何か助けになるものはありますか。
「小規模多機能型居宅介護」という介護保険サービスがあります。通い(デイサービス)・訪問・泊まりを同じ事業所の顔なじみのスタッフが柔軟に組み合わせて提供する仕組みで、環境の変化に敏感な認知症の方でも、なじみの関係の中でケアを受けやすいのが特徴です。ケアプランに組み込めるかどうかは、ケアマネジャーへの相談が最初の一歩になります。
すでに要介護認定を受けている方は訪問介護やデイサービスの利用日数を調整することも、見守りの空白時間を減らす方法の一つです。まだ介護保険を使っていない場合は、地域包括支援センターに相談すると要介護認定の申請から案内してもらえます。
制度・給付: 自治体の見守り・GPS支援
自治体が助けてくれる制度もあるのでしょうか。
あります。代表的なのが、認知症の高齢者等を対象にした「見守りSOSネットワーク事業」です。事前に氏名・特徴・写真などを自治体に登録しておくと、行方不明になった際に関係機関へ速やかに情報提供され、早期発見につながる仕組みです。無料で利用できることが多く、たとえば熊本市の認知症高齢者等見守りSOSネットワーク事業では、QRコード付きシールを衣類などに貼り付け、読み取られると家族にメールで発見通知が届く仕組みも用意されています。
GPS機器についても、自治体が導入費や月々の利用料を助成している例があります。たとえば町田市では、認知症等による行方不明高齢者探索サービス事業として、GPS端末の利用料を月額440円(生活保護世帯は無料)で提供しています。ほかにも、GPS機器の導入費を数万円まで補助する自治体や、通信費の実費を月1,000円程度まで助成する自治体もあります。
⚠️ 制度は自治体ごとに大きく異なります
見守りSOSネットワークやGPS利用料助成は、実施の有無・対象年齢・自己負担額が自治体によって大きく異なります。この記事で紹介した例がそのままお住まいの自治体に当てはまるとは限りません。地域包括支援センターや自治体の高齢福祉担当窓口に、まず「うちの自治体にこの制度はありますか」と確認してください。
GPS端末という選択肢
自治体の制度がない場合は、どうすればいいですか。
市販のGPS端末を家族で契約して使う方法もあります。キーホルダー型・靴に入れるタイプ・カード型などがあり、スマートフォンのアプリで居場所を確認できる製品が主流です。自治体の助成対象になっている機種を選ぶと利用料が抑えられる場合があるので、契約前に自治体の助成制度と対象機種を確認しておくと無駄がありません。
ただし、GPS端末には向き不向きがあります。ご本人が持ち物を頻繁に置き忘れる、身につけることを嫌がる場合は、居場所がわかっても発見が遅れることがあります。衣類に直接縫い付けるタイプや、普段から手放さない杖・バッグに取り付ける工夫と組み合わせると効果を発揮しやすくなります。
どこに相談すればいい?
実際に行方不明になってしまったときのために、今からできることはありますか。
事前に警察(最寄りの交番・駐在所)に相談し、家族の情報や特徴を伝えておくことができます。多くの自治体の見守りSOSネットワークは、警察への届出と連動する仕組みになっているため、両方を組み合わせておくと安心です。すでにケアマネジャーがいる方はケアマネジャーへ、まだ介護保険を使っていない方は地域包括支援センターに、まずは相談してみてください。
相談時にそのまま使える質問メモ
- うちの自治体に、認知症高齢者の見守りSOSネットワークはありますか。登録は無料ですか。
- GPS端末の利用料や導入費を助成する制度はありますか。対象になる機種はありますか。
- 小規模多機能型居宅介護は、うちのケアプランに組み込めますか。
- 行方不明になったときのために、事前に警察へ相談・登録できる仕組みはありますか。
- 近隣に事情を伝える場合、地域包括支援センターから一緒に説明してもらうことはできますか。
まとめ
| 状況 | 主な選択肢 | 相談先 |
|---|---|---|
| 何から始めればいいかわからない | 衣類・持ち物への連絡先記載、近隣への事前共有 | 家族・地域包括支援センター |
| 見守りの時間を増やしたい | 小規模多機能型居宅介護、訪問介護・デイサービスの調整 | ケアマネジャー |
| 行方不明時に早く見つけたい | 自治体の見守りSOSネットワーク事業(無料登録) | 自治体の高齢福祉窓口 |
| GPSの費用を抑えたい | 自治体のGPS利用料・導入費助成 | 自治体の高齢福祉窓口・地域包括支援センター |
| 万一に備えたい | 警察への事前相談・登録 | 最寄りの交番・駐在所 |
起きてから慌てるのではなく、今のうちに準備しておけることがあると知って、少し安心しました。
ひとり歩きの不安は、ご本人を24時間見張ることでは解決できません。地域包括支援センターや自治体の窓口、警察を含めて「見守りの輪」を広げておくことが、家族の負担を減らす近道です。